事件番号:JP2000-0002 裁 定 申立人: (名称)株式会社エヌ・ティ・ティ エックス (住所)東京都千代田区大手町1丁目6番1号 代理人:弁護士 小野寺 良文 同 横 山 経通 登録者: (名称)有限会社ポップコーン (住所)岡山県倉敷市赤崎4丁目4番1号 代理人:弁護士 登坂 真人 工業所有権仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名 紛争処理方針のための手続規則及び工業所有権仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針の ための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審 理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「goo.co.jp」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「goo.co.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張 (1)申立人(旧商号株式会社エヌ・ティ・ティエムイー情報流通、平成12年(20 00年)5月11日現商号に変更)は、日本電信電話株式会社の関連会社として平成1 1年(1999年)1月4日に設立され、通信ネットワークを利用した各種情報提供サ ービス等の業務を営むものである。申立人は、日本電信電話株式会社の同じく関連会社 である申立外株式会社エヌ・ティ・ティ・アドが平成9年(1997年)3月27日に 開設したインターネット上の検索情報サービスであるgooサイト(トップ頁 「http://www.goo.ne.jp」以下「gooサイト」という。)の運営事業の営業譲渡を受けて、 これを運営している。申立人は、別紙申立人商標権目録記載の商標権を有している。 (2)登録者は、平成元年(1994年)6月22日に設立された会社であり、社団法 人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)にドメイン 名「goo.co.jp」(以下「登録者ドメイン名」という。)を登録している。 (3)登録者は、申立人が有する商標権に係る商標の顧客吸引力及び申立人が運営する インターネット上の著名な検索情報サービスであるgooサイトの顧客吸引力を利用して、 インターネット上のユーザーをいわゆるアダルト画像を多数掲載し、また、有料でこれ らの画像を提供しているウェブサイトに誘引するため、申立人の商標権及び申立人が登 録するgooサイトのドメイン名「goo.ne.jp」と誤認混同を生ずることが明らかな類似の ドメイン名「goo.co.jp」(以下「登録者ドメイン名」という。)を登録、利用している。 (4)そして、登録者は、登録者ドメイン名を専ら上記アダルト画像を掲載、提供する ウェブサイトへの転送目的のみに用いており、登録者ドメイン名に対して何らの権利も しくは正当な利益を有していない。 (5)したがって、本件は、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)4 条に定めるJPドメイン名紛争処理手続の適用対象となる紛争であることは明らかであり、 申立人は処理方針3条に基づき、登録者が登録するドメイン名goo.co.jpを申立人に移転 するよう求める。 b 登録者の主張 (1)インターネットの本質 いうまでもなく、インターネットは情報のフリーウェイであり、文字通り星の数ほど の情報が流通している。情報の発信者は、個人・中小事業者から大規模事業者まで多岐 にわたり、情報のジャンル・内容も極めて多彩なものである。インターネットは、全世 界の人々が自由に情報を発信し、受領するための手段として、もはや欠かせないシステ ムであるということができる。インターネットでは、大規模な資金力を持たない個人・ 中小事業者などが、自由な発想と創造性を駆使してビジネスの分野で活発な活動を展開 しているばかりでなく、個人が芸術・思想・学術などの分野で自己実現を図り、また、 個人が情報の消費者として、諸々の情報を得て自らのQOL(クオリティー・オブ・ラ イフ)の向上をはかっている。他方では、情報の質についての幅は極めて広いものとな っており、情報の受領者には、情報を取捨選択し、また、情報の価値を自ら評価する力 が求められている。しかし、これら情報受領者側の資質を高めるための啓蒙・教育など が必要だったとしても、情報フリーウェイであるインターネットの重要性は、何等減殺 されるものではない。 このようなインターネットが、今日のような重要な情報伝達・提供手段となり、事業 者間のみならず一般市民の間にも急速に利用が拡大したのは、正に上記のような自由な 情報流通が保障されているからにほかならない。自由な情報流通・伝達の機能が減殺さ れてしまえば、インターネットのインターネットたるゆえんが失われるといっても過言 ではない。 そして、上記のような自由な情報流通・提供を支えるのが、情報発信・提供の自由で ある。個人のみならず、中小事業者が自由に情報を発信・提供できるシステムが保障さ れているからこそ、インターネットは高度情報化社会の中で中核的な役割を与えられて いるのである。インターネットを通じた個人・法人の表現行為、営業・事業活動は、今 やなくてはならないのであり、前者は憲法21条、後者は憲法22条によって保障され る行為・活動であることが、改めて指摘されなければならない。 (2)自由な情報発信・提供とドメイン名 前述のような、自由な情報発信・提供を支えるルールとして重要なのが、ドメイン名 の自由取得ルールである。勿論、既存のドメイン名と重複するドメイン名を取得できな いことは当然であるが、既存のドメイン名でなければ自由にこれを取得できるシステム ないしルールが存在することが、自由な情報発信・提供行為の場・機会を個人・中小事 業者にも与えていることを看過してはならない。ドメイン名の自由取得ルールは、イン ターネットを支えるきわめて重要なルールであり、安易にこれを制限することは、イン ターネット上でのダイナミックなビジネスの活力などを大きく減殺してしまうことにな る。 ところで、ドメイン名は、インターネットにおける「住所」であり、且つ、情報発信・ 提供者の「氏名」である。ドメイン名は、一般的には「goo.co.jp」の全体をさすものであ ると理解されており、それぞれの部分に「co」は会社を、「jp」は国名をさすなどの意味 が与えられているものの、一体をなすものであることは広く理解されているといってよ い。 また、ドメイン名が情報発信・提供者の「住所」「氏名」である以上、一字でも違えば 全く別の情報発信・提供者となることは当然である(それゆえに、一体として理解され ている)。非常に単純な例であるが、住所・氏名を正確に書かなければ郵便は意図する相 手方に到達しない。電話番号・FAX番号を正確にかけなければ、これも意図する相手 方にはつながらないし、場合によっては全く意図しない相手方と接続してしまう。電子 メールにしても、相手方のメールアドレスを正確に入力しなければ、同様の事態が発生 する。間違い電話・FAXをかけてしまったとき、或いは、電子メールのメールアドレ スを間違えてしまったとき、一般的な市民が当該相手方の電話・FAX番号などが紛ら わしいなどと言って非難することなど考えられない。ドメイン名も全く同様であり、仮 に、情報受領者側に電話・FAX番号と同様の認識が欠けているとしても、それはイン ターネットが急速に普及し過ぎたために、情報受領者側の意識が普及のスピードに追い 付いていないに過ぎず、この過渡的段階を超えれば、ドメイン名に対する理解が電話・ FAX番号程度に対するそれと同様となることは容易に想像できるところである。以上 述べたところから明らかなとおり、「goo.co.jp」と「goo.ne.jp」は全く別の「住所」「氏名」 すなわちドメイン名なのである。申立人は、ドメイン名を無理やりに分解し、「goo」と 「co.jp」ないし「ne.jp」を異なったものとしているが、不合理極まりない主張と言わな ければならない。もとより、ドメイン名の自由取得ルールといっても、「治外法権」「無 法地帯」といった状況を想定しているものではない。不正競争防止法の趣旨に鑑みても、 他人の営業・事業活動と誤認混同を生じさせる目的、これらを妨害する目的などの不正 な目的によって、既存のドメイン名と殊更類似したドメイン名を後から取得することな どは、何らかの規制・調整が求められているといえよう。しかし、本件において看過さ れてはならないのは、登録者のドメイン名の取得は、何ら不正の目的をもってなされた ものではなく、また、ドメイン名について正当な権利・利益を有していることである。 (3)本件における事実経過と「不正の目的」 本件の時系列的な経過を正確に抑えておくことは、極めて重要なことである。この時 系列的な経過を前提とすれば、申立人の主張がいかに不合理なものかが明らかとなる。 平成 8年(1996年) 8月16日: 登録者が「goo.co.jp」のドメイン名を登録 10月29日: 登録者が接続(実質的な活動の始期) 平成 9年(1997年) 1月 : 登録者が雑誌「CydbrDoll」に広告入稿 1月28日: 申立人が別紙申立人商標権目録⑤の商標出願 2月12日: 申立人が「goo.ne.jp」のドメイン名を登録 2月15日: 同日発行の「CydbrDoll」に登録者の広告掲載 なお、この広告は女子高校生が自由に発言するという内 容のサイトであった。 2月25日: 申立人が接続 3月 6日: 申立人がプレスリリース 3月6日より前には、プレスリリース、広告掲載などは 行われていない。 6月 9日: 別紙申立人商標権目録①~④、⑥の商標出願 平成11年(1999年) 1月 8日: 同目録①~④の商標登録 9月10日: 同目録⑤の商標登録 9月17日: 同目録⑥の商標登録 以上の経緯からも明らかなとおり、登録者が「goo.co.jp」のドメイン名を登録し、かつ、 接続を開始した当時、「goo.ne.jp」なるドメイン名は影も形もなかった。申立人のプレス リリースも、登録者の接続の4ヶ月以上後であったのであり、存在しない「goo.ne.jp」 というドメイン名と誤認混同を生ぜしめる目的などの不正な目的をもって、登録者が 「goo.co.jp」というドメイン名を取得できるはずはなく、このような議論は不合理極まり ないものである。更に、申立人の商標出願の全てが、登録者のドメイン名取得・接続開 始の後だった点も重要である。商標出願をしただけでは、出願をしたこと自体公知の事 実となるわけではなく、公知の事実となるのは商標登録後であることは自明であろう。 登録者は、以上のような「goo.co.jp」のドメイン名登録が、何故「不正の目的で登録また は使用している」と主張されるのか、全く理解できない。 (4)登録者のドメイン名取得と「正当な利益」 前述したとおり、登録者は、平成9年2月15日発行の「CydbrDoll」に「goo.co.jp」 の広告を掲載した(乙1)。これを見れば分かるとおり、女子高生を対象とするコミュニ ケーションを目的としたホームページであった。 そもそも、「goo.co.jp」の「goo」(グー)は、女子高生の間で流行した「チョベリグ」 「チョベリグー」(「超 very good!」の略)からヒントを得たものである。現在でも、 「Good」を表現する場合、親指を立てて「グー!」と言うことは一般的であるといえる が、当時は「チョベリグ」「チョベリグー」という表現が女子高生の間で頻繁に使われて いた。登録者は、女子高生を対象とするコミュニケーションを目的としたホームページ を開設するに当たり、一般の女子高生が使う言葉を借用したに過ぎない。そして、「good」 と表記するのではなく、「グー」という語呂に合わせて、「d」をはずした「goo」を採用 したのである。 登録者のドメイン名取得は正当であり、また、その利益も保護に値するものであって、 申立人の主張は、言い掛かり的なものであるといわざるを得ない。その端的な現れが、 アダルト系のサイト、ホームページだから正当な利益がないかのような主張といえよう。 アダルト系の情報には、嗜好ないし好き・嫌いがあることは否定しないが、性的表現で あるから有害であるとか、排除されてしかるべきであるとの主張は危険である。過去に わいせつ性が争われた裁判例は数多いが、「わいせつ」概念自体が不明確であるうえ、表 現の自由(憲法21条)とも直結する問題なのであるから、慎重に判断されなければな らない。性的表現は、人間存在ないし人間の本質に直結するものであり、好むと好まざ るとに関わらず、文化の一部を構成している。過去においてアングラ芸術と称されたも のの中には、政治的な主張をこれらに託したものさえ存したのであり、このような微妙 な問題に関して、一般的な「レッテル張り」は危険極まりないというほかない。 (5)商標権・不正競争防止の主張と本件の本質 登録者は、申立人が商標権を主張することの法的意味が全く理解できない。そもそも、 商標とは、文字・図形・記号もしくはこれらの結合、または、これらと色彩との結合で ある標章を、業として製造販売する商品や提供する役務に用いるものである。申立人が 証拠として提出している公報も、正にこのような商標に関するものである。商標は、正 に可視的な標章が商品や役務と結びつき、出所表示機能などを持つことによって保護さ れるのであって、言葉自体や文字自体が保護の対象となっているのではない。したがっ て、可視的な形状が似ても似つかない標章は、同じ言葉・文字を使っていたとしても、 類似商標とは認められない。 申立人が問題としているのは、ドメイン名の「goo」の部分であるが、前述したとおり、 極一般的に使われる言葉としての「goo」(グー)を意味するのであって、上記のような 商標とは無関係である。インターネットは、いうまでもなくコンピュータによって接続 するものであり、ドメイン名はアルファベット及び記号の羅列が「住所」、「氏名」とし ての意味を持つものなのである。ドメイン名は、恣意的に分解して考えられるものでは なく、一体として「住所」「氏名」と考えるべきものであるから、申立人の主張が不合理 であることは前述した。 また、我が国の商標登録制度は、商標出願後、直ちに商標出願が公知のものとなるも のではない。確かに、商標出願後5~6ヶ月でコンピュータに入力されるのが普通であ り、弁理士などの専門家であれば、コンピュータにアクセスして確認などをすることは 可能であろう。しかし、個人のみならず一般的な中小事業者がドメイン名を登録するに 際して、商標出願の有無を確認することを義務付けることは非現実的である。しかも、 本件では、申立人の全ての商標出願は、登録者の登録・接続よりも後なのである。そし て、商標登録がされたのは、登録者の登録の2年以上も後のことなのである。いかなる 意味においても、登録者が商標権を侵害する目的でドメイン名を登録したことなどあり 得ない。何故、申立人が商標権に関する主張を展開するのか、本件と商標権がどのよう に関係するのか、申立人はより詳細に明らかにすべきである。 確かに、申立人は、多額の宣伝費を投入し、多くのメディアを利用して「goo.ne.jp」 を宣伝してきたであろう。また、その効果も、申立人の主張どおりに上がっているので あろう。しかし、これらの宣伝も、平成9年3月6日のプレスリリース以降のことであ り、この時点では既に「goo.co.jp」は存在していたのである。そもそも、申立人の論理を 前提とすれば、既存のドメイン名と数文字違いのドメイン名を後から登録し、多額の宣 伝費をかけて周知のものとすれば、既存のドメイン名の使用を妨げることができること になる。すなわち、多額の宣伝費をかけられる巨大企業であれば、日本全国の個人・中 小事業者が有する全てのドメイン名を、ほしいままに取得することができることになる のである。このような論理が、インターネットという世界で通用するのであろうか。前 述したとおり、自由な情報流通の基礎である情報発信・提供を支えているドメイン名自 由取得の原則を、このような形で脅かすことが許されるのであろうか。このような方法 で登録者にドメイン名の移転を求めること自体、公正な経済活動・自由競争を侵害する ものではないか。 (6)まとめ 以上のとおり、申立人が申立書に記載する申立ての理由は不合理極まりないものであ り、インターネットの自由な活動を脅かしかねない著しく不当なものである。申立人の 主張は、巨大企業(関連企業)の力と資本の論理であり、およそインターネットの本質 と相容れないといわざるを得ない。 5 争点及び事実認定 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「規則」という)15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように 指示する。「パネルは、提出された陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用さ れうる関係法規の規定、原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して いる。 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (ⅱ)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 本パネルは、提出された陳述及び証拠の結果に基づき、上記当事者の主張に現れた争点 につき、次のとおりの事実を認定した。 (1)申立人及び登録者 申立人(旧商号株式会社エヌ・ティ・ティエムイー情報流通、平成12年(2000 年)5月11日現商号に変更)は、日本電信電話株式会社の関連会社として平成11年 (1999年)1月4日に設立され、通信ネットワークを利用した各種情報提供サービ ス等の業務を営むものである。申立人は、日本電信電話株式会社の同じく関連会社であ る申立外株式会社エヌ・ティ・ティ・アドが平成9年(1997年)3月27日に開設 したインターネット上の検索情報サービスであるgooサイト(トップ頁 「http://www.goo.ne.jp」)の運営事業の営業譲渡を受けて、これを運営している。 登録者は、平成元年(1994年)6月22日に設立された会社であり、JPNICに登 録者ドメイン名を登録しているところ、申立人のgooサイトの開設後、後記のとおりこれ が著名となった後である平成11年(1999年)9月ころから、登録者ドメイン名を専 ら申立外有限会社リアル(甲1)が運営するいわゆるアダルト画像を多数掲載し、アダル ト画像を有料で提供しているウェブサイト(http://www.real.co.jp、以下「転送先サイト」 という。)への転送のみを目的として使用している。 (2)申立人の有する商標権及びgooサイトの表示の著名性、申立人の有する正当な利 益 申立人は、別紙申立人商標権目録記載の①から⑥の商標権を有する(甲2~甲7の各 1,2、以下、その商標を「申立人商標」という。)。 申立人商標のうち、①、②、⑤はアルファベット文字「GOO」とカタカナ文字「グー」 を上下に配列した同一の構成のものであり、③、④、⑥はアルファベット文字「goo」を 図案化した同一構成の構成のものである。その指定役務には、「インターネットにおける ホームページ検索用エンジンの提供」(②、④)、「新聞・雑誌・書籍・テレビジョン及び インターネット等の電子計算機端末通信による広告」(⑤、⑥)等が含まれ、これらの商 標は主に申立人のgooサイトを示すものとして使用されている(甲10の1~657、 甲11、甲12の1~31、甲13、甲14の1~17、甲15、甲16の1~4,甲1 7の1,2、甲18)。 また、申立人が運営しているgooサイト(トップ頁「http://www.goo.ne.jp」)は、平成 9年(1997年)3月27日にインターネット上の情報検索サイトとして開設されて 以来、順次その機能を拡張し、以下の①ないし④に示されるとおり、申立人が多額の費 用と企業努力を傾注して宣伝広告した結果、遅くとも平成11年(1999年)8月末 日までには、日本を代表する情報検索を中心としたポータルサイトしてインターネット 利用者の間で著名となった。したがって、申立人商標とともに、gooサイトにおいて用い られている「goo」及び「goo.ne.jp」の表示は高い顧客吸引力を取得しており、申立人に おいて、これを継続して使用する正当な利益を有していると認められる。 ① アクセス数(甲8の1~21、甲9の1,2) 申立外株式会社日本リサーチセンターが発表しているインターネット上のサイトの アクセス率を示す指標である「Japan Access Rating」(以下「JAR」という。)調査に おいて、gooサイトは、常に上位の視聴率を占めており、また、gooサイトにアクセス がなされた実数である一日あたりのページビュー数も、サービス開始後5ヶ月間で1 00万(件/日)を突破し、平成11年(1999年)8月までに1000万(件/ 日)、平成12年(2000年)7月までに1450(件/日)万をそれぞれ記録して いる。 ② 各種報道(甲10の1~656) gooサイトは、開設時である平成9年3月以降現在までに多くの新聞、雑誌、ホーム ページ記事、メールニュースなどで紹介されており、その数は少なくとも656件に 上り、また、テレビ番組中でも多数回取り上げられている。 ③ 宣伝広告活動(甲11、甲12の1~31、甲13、甲14の1~17、甲15、 甲16の1~4、甲17の1,2) 申立人は、gooサイトを宣伝広告するために、gooサイト開設前の平成8年(199 6年)度に約350万円、開設した平成9年(1997年)度に約1500万円、以 後平成10年(1998年)度に約900万円、平成11年(1999年)度に約4 000万円、平成12年(2000年)度(同年4月から9月までの間)に約5億2 000万円、合計約5億8000万円を投じ、テレビコマーシャル、新聞、雑誌広告、 インターネット上でのバナー広告、イベント開催など広範な宣伝広告活動をしている。 ④ 事業収入(甲18) 申立人のgooサイト関連事業から得られた事業収入は、平成9年度に合計約1億円、 平成10年度に合計約1億9000万円、平成11年度に合計約11億6000万円、 平成12年度は上半期のみで約9億5000万円となっており、平成11年度の同事 業による申立人の収入は、申立人の平成11年度の事業収益約79億円(甲18)の 約8分の1を占めている。なお、同サイトは、インターネット上の検索サービスなど 広範な情報提供を行っているが、その主要なサービスを無料で行っており、右収入の 大半はサイト上の広告収入である。 (3)登録者ドメイン名と申立人商標等との類似性(処理方針4条a.(ⅰ)) 登録者ドメイン名は「goo.co.jp」であり、申立人商標①ないし⑥及び申立人がgooサイ トにおいて用いている表示である「goo」及び「goo.ne.jp」の表示と誤認混同を生じるほ ど類似していることは明らかである。 すなわち、登録者ドメイン名「goo.co.jp」及び申立人サイトのドメイン名「goo.ne.jp」 のうち、「.jp」の部分はトップレベルドメインを構成し国別コードからなり、「.co」、 「.ne」の部分はセカンドレベルドメインを構成し組織の種別コードからなり、「goo」の 部分は当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードからなるものであって、 トップレベルドメイン及びセカンドレベルドメインはそれぞれホストが属する国及び組 織を表示するものであるから、登録者ドメイン名及び申立人のgooサイトのドメイン名 において主たる識別力を有するのは「goo」の部分にあるものと認められる。すなわち、 両者の要部はともに「goo」であって同一であり、全体として類似するものである。また、 申立人商標は、前述のとおり「goo」の文字を図案化したもの、または「GOO」及び「グ ー」の文字によって構成されており、これらと登録者ドメイン名の要部である「goo」と は、称呼において同一であり、外観において類似し、全体として類似の範囲を出ない。 このような両者の類似性と、前記認定のとおり遅くとも平成11年(1999年)8 月末日までには、gooサイトが情報検索を中心としたポータルサイトしてインターネット 利用者の間で著名となったことを考慮すると、登録者ドメイン名が、申立人のgooサイ トのドメイン名及び申立人商標との間で、その出所の誤認混同を生じさせるおそれがあ ることは明白といわなければならない。このことは、申立人のもとには多くのインター ネット上のユーザーからかかる誤認混同を生じていることを示す電子メールが届いてお り、その数は、平成11年10月1日以降の分だけでも93件である(これらのうちメ ール自体が申立人のもとに保存されていたものとして甲19の1~22)ことからも明 らかである。 確かに、ドメイン名は、インターネットにおける情報発信・提供者のいわば「住所」・ 「氏名」であり、一字でも違えば別の情報発信・提供者となることは、登録者の主張す るとおりであるが、登録者ドメイン名と申立人のgooサイトのドメイン名及び申立人商 標とはその要部において同一であり全体として類似の範囲に属するものといわなければ ならず、また、現実にそれが利用されている場において誤認混同を生じるおそれがある ものであることは、以上認定のとおりである。 登録者ドメイン名が、処理方針4条a.(ⅰ)の要件に該当することは明らかといわなけれ ばならない。 (4)登録者ドメイン名の不正目的使用(処理方針4条a.(ⅲ))。 登録者ドメイン名の現在の使用態様をみると、登録者ドメイン名を利用した登録者サ イトにインターネット上のユーザーがアクセスすると、瞬時に自動的に転送先サイト (http://www.real.co.jp)に転送される仕組みになっており、インターネット上の利用者 が登録者サイトにアクセスすると強制的に転送先サイトにアクセスさせられることにな り(甲23)、登録者サイトには全く独自の情報が掲載されておらず、専ら転送先サイト への転送のみに用いられている(甲20)。そして、転送先サイトには、多数のいわゆる アダルト画像が掲載されており、さらに同サイトはアダルト画像を有料でダウンロード するサービスに接続されており(甲21)、また、利用者が転送先サイトを閉じる操作を 行っても一旦同サイトが閉じた後に自動的に次々に多数のアダルト画像が表示される仕 組みとなっており、これを一つ一つ閉じていって初めて同サイトを完全に閉じることが できる(甲22、甲23)仕組みになっている。 この事実と、登録者ドメイン名を利用した登録者サイトが専ら転送先サイトへの転送 のみに用いられるようになったのは平成11年(1999年)9月ころからであり、申 立人のgooサイトが情報検索を中心としたポータルサイトしてインターネット利用者の 間で著名となった平成11年(1999年)8月より後のことであると推認でき(乙1、 乙2はこれを覆すに足りない。)、現在においてはこの態様においてのみ使用されている こと、登録者ドメイン名(goo.co.jp)と申立人のgooサイトの表示及び申立人商標と類似 性を総合考慮すると、登録者は、インターネット上の利用者がgoo.co.jpとgoo.ne.jpを誤 認混同して登録者サイトにアクセスする機会の多くあることを奇貨として、間違ってア クセスした場合、その利用者は強制的に転送先サイトにアクセスさせられ多数のいわゆ るアダルト画像に接するを得ず、しかも同サイトを閉じることが直ちにはできないとい う当該利用者がその意に反する状態に置かれることを知りながら、あえてこれを放置容 認して、申立人のgooサイト及び申立人の社会的信用が毀損されるおそれが生ずる結果 となることに意を介さず、さらにまた、これを利用して利用者の一部が転送先サイトか らアダルト画像を有料でダウンロードすることを誘引し商業上の利益を得ることをも意 図しているものといわなければならない。これによってみれば、登録者による登録者ド メイン名の使用は、社会的に相当として許される程度を超えたものというのほかはなく、 処理方針4条a.(ⅲ)の不正の目的で使用されていることに該当すると評価すべきもので ある。 登録者は、登録者ドメイン名の取得が申立人gooサイトの開設及び申立人商標権の登 録より時期的に早いから、登録者には、不正の目的で登録したものということはできな いと主張するが、登録時に不正の目的がなくとも、その後不正の目的をもってドメイン 名を使用することが、処理方針4条a.(ⅲ)の要件に該当することは、同条a.(ⅲ)が「登録 者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」と規定していること から明らかである。登録者は、また、アダルト系の情報が性的表現であるから有害であ るとか排除されてしかるべきとの主張は危険であって、表現の自由(憲法21条)とも 直結する問題であるから慎重に判断されなければならない旨を主張するが、欲して性的 表現に接しようとする場合はともかく、本件のように利用者が欲せずに継続して接する ことを余儀なくさせられることとの間には自ずからその社会的評価に差異が生ずること は明らかであるから、登録者の主張は、上記判断を覆すに足りるものではない。 (5)登録者ドメイン名の登録についての権利または正当な利益の不存在(処理方針4 条a.(ⅱ))。 上述のとおり、登録者ドメイン名の取得は申立人gooサイトの開設及び申立人商標 権の登録に先立つものであるから、取得時において登録者が「goo.co.jp」としてドメイン 名を登録することは自由であり、この登録に正当な利益を有していないとすることはで きない。しかし、その後不正な目的でこれを使用する等の場合には、その登録を維持す る正当な利益は失われると解するのが相当である。処理方針4条a.(ⅱ)が「登録者が、当 該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと」と規定した 趣旨は、単に「登録」自体についてのみならず、その後当該ドメイン名の登録を維持す る上において権利または正当な利益を有していない場合をも含むものというべきである。 けだし、このように解さないと、一旦登録してしまえば、その後いかに不正な態様でド メイン名を使用してもこれを放置することになり、4条a.に定める要件に該当するかど うかによってドメイン名の使用から発生する登録者と第三者との間のドメイン名に係わ る紛争を処理するという処理方針の基本理念に反することになるからである。先使用者 が有する利益も、その使用が「不正の目的」、「不正競争の目的」でなされている場合に は保護されないことは、例えば不正競争防止法11条1項2ないし4号、商標法32条 1項の各規定にも現れていることであり、また、商標登録された商標の使用もそれが他 人の著名表示にただ乗りする等の不正競争行為に該当するとき、商標権侵害の主張が権 利濫用に当たり保護されないことは確定した判例となっていることから明らかである。 また、登録者が、登録者ドメイン名の名称で一般に認識されている事実はない。すな わち、登録者の商号は有限会社ポップコーンであり、登録者ドメイン名を使用している 登録者サイトも専ら転送先サイトへの転送のみを目的としており、全く独自の掲載情報 を有しておらず(甲20、甲23)、その他にも登録者が「goo」ないしは「goo.co.jp」と の名称で一般に認識されるていることを示す事実は一切ない。 以上のとおりであるから、登録者は、当該ドメイン名の登録についての権利または正 当な利益を有していないといわざるを得ない。 6 結 論 以上に照らして、本紛争処理パネルは、全員一致の意見によって、登録者によって登録 されたドメイン名「goo.co.jp 」が申立人商標及び申立人のgooサイトの表示と混同を引 き起こすほど類似し、登録者が、登録者ドメイン名について権利又は正当な利益を有して おらず、登録者ドメイン名が不正の目的で使用されているものと裁定する。 よって、処理方針4条i.に従って、ドメイン名「goo.co.jp」の登録を申立人に移転す るものとし,主文のとおり裁定する。 2001年2月5日 工業所有権仲裁センター紛争処理パネル 主任パネリスト 牧 野 利 秋 パネリスト 竹 田 稔 パネリスト 後 藤 晴 男 別記 手続の経緯 (1) 申立受領日 2000年11月20日(電子メール及び窓口) (2) 料金受領日 2000年11月20日 なお、申立人は、2000年11月17日に360,000円を支払い、同月2日 に消費税不足分18,000円を支払った。 (3) ドメイン名及び登録者の確認日 2000年11月20日 センターの照会日(電子メール) 2000年11月20日 JPNICの確認日(電子メール) 確認内容 ① 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること ② 登録担当者は阿部慶一郎であること (4) 適式性 センターは、2000年11月24日、申立書がJPNICの処理方針、規則、補則の形 式要件を充足することを確認した。 (5) 手続開始日 2000年11月24日 手続開始日の通知 2000年11月24日 JPNICへ(電子メール) 申立人へ(電子メール及び郵送) (6) 登録者・登録担当者への通知日及び内容 ① 2000年11月24日(電子メール及び郵送) ② 申立書、及び、処理手続の開始通知書 ③ 答弁書提出期限 2000年12月22日 (7) 答弁書の提出の有無及び提出日 ① 提出有 ② 2000年12月22日(電子メール及び窓口) (8) 答弁書の申立人への送付日 2000年12月22日(電子メール及び郵送) (9) パネリストの選任 申立人は3名構成のパネルを要求 主任パネリスト候補者の提示日(両当事者へ) 2000年12月28日(電子メール及び郵送) 主任パネリスト候補者に対する選考順位回答書の提出日 申立人 2001年1月4日(電子メール) 登録者 2001年1月11日(ファクシミリ及び電子メール) 中立宣言書の受領日 2001年1月16日 パネリスト 牧野利秋(主任パネリスト) 竹田 稔 後藤晴男 (10) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日(JPNIC及び両当事者へ) 2001年1月18日(電子メール及び郵送) 裁定予定日(2001年2月7日) (11) パネリスト指名書及び一件書類の送付(パネリストへ) 2001年1月18日(電子メール及び郵送) (12)パネルによる審理 2001年1月31日 会合 別紙 申立人商標権目録 ① 登録番号 第4227818号(甲2の1,2) 出願日 平成9年1月28日 登録日 平成11年1月8日 指定役務 38類 移動体電話による通信、電子計算機端末による通信、電話による 通信、ファクシミリによる通信、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送、ラジ オ放送、報道をする者に対するニュースの供給 商標の構成 後記Ⅰのとおり ② 登録番号 第4227819号(甲3の1,2) 出願日 平成9年1月28日 登録日 平成11年1月8日 指定役務 42類 インターネットにおけるホームページ検索用エンジンの提供、イ ンターネット等の電子計算機端末による気象情報・求人情報・ファッション情報の 提供、電子計算機のプログラム設計・作成又は保守 商標の構成 後記Ⅰのとおり ③ 登録番号 第4227913号(甲4の1,2) 出願日 平成9年6月9日 登録日 平成11年1月8日 指定役務 38類 移動体電話による通信、電話による通信、ファクシミリによる通 信、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送、ラジオ放送、報道をする者に対す るニュースの供給 商標の構成 後記Ⅱのとおり ④ 登録番号 第4227914号(甲5の1,2) 出願日 平成9年6月9日 登録日 平成11年1月8日 指定役務 42類 電子計算機のプログラム設計・作成又は保守、インターネットに おけるホームページ検索用エンジンの提供、インターネット等の電子計算機端末に よる気象情報・求人情報・ファッション情報の提供 商標の構成 後記Ⅱのとおり ⑤ 登録番号 第4314060号(甲6の1,2) 出願日 平成9年1月28日 登録日 平成11年9月10日 指定役務 35類 企業情報の提供、経済情報の提供、新聞・雑誌・書籍・テレビジ ョン及びインターネット等の電子計算機端末通信による広告、インターネット等の 電子計算機端末通信による広告、インターネット等の電子計算機端末通信による市 場調査及び商品の販売に関する情報の提供 商標の構成 後記Ⅰのとおり ⑥ 登録番号 第4315163号(甲7の1,2) 出願日 平成9年6月9日 登録日 平成11年9月17日 指定役務 35類 企業情報の提供、経済情報の提供、新聞・雑誌・書籍・テレビジ ョン及びインターネット等の電子計算機端末通信による広告、インターネット等の 電子計算機端末に通信による広告、インターネット等の電子計算機端末通信による 市場調査及び商品の販売に関する情報の提供 商標の構成 後記Ⅱのとおり 商標の構成 Ⅰ(上記①、②、⑤の商標)
Ⅱ(上記③、④、⑥の商標)
以上